脳腫瘍

                              脳神経外科 原 慶次郎

 脳腫瘍は脳実質内(脳組織)から発生するものと、脳実質を覆う髄膜、脳神経、下垂体などの脳実質外から発生するものがあり、さらに、転移性脳腫瘍と原発性脳腫瘍に分類されます。原発性脳腫瘍は脳実質や髄膜などの頭蓋内の組織自体から発生します。転移性脳腫瘍は肺などの他臓器の悪性腫瘍が頭蓋内に転移することにより生じます。
疫学:原発性脳腫瘍の発生頻度は年間、人口10万につき8~10人と推察されています。近年のMRIの普及により、小さな髄膜腫など無症候性の腫瘍が増加しています。

<疾患の概念>
 原発性脳腫瘍には様々な病理組織型があります。脳実質内腫瘍には神経細胞あるいは神経膠細胞への分化を示す神経膠腫や未熟な神経上皮細胞由来の髄芽腫などがあります。脳実質外腫瘍には髄膜から発生する髄膜腫、下垂体前葉細胞から発生する下垂体腺腫や脳神経を覆う神経鞘から発生する神経鞘腫などがあります。組織型別発生頻度は髄膜腫が26.8%と最も多く、以下、神経膠腫(25.2%)、下垂体腺腫(17.9%)、神経鞘腫 (10.4%)、頭蓋咽頭腫(3.5%)の順です(表1)。

 また、発症年齢については、小児期と50歳前後に2峰性のピークがあり、小児期(15歳未満)に全体の約7%、70歳以上に約12%が発生します。そして、年齢により発生しやすい腫瘍型も異なります。小児期には星細胞腫、胚細胞腫瘍、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、脳室上衣腫が多く発生します。成人には髄膜腫、神経膠腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、転移性脳腫瘍が発生することが多いです。

 脳腫瘍は性差・年齢だけでなく、脳の部位により、発生しやすい腫瘍が異なります(図1)。大脳半球には神経膠腫、髄膜腫と転移性脳腫瘍が多く、側脳室には脳室上衣腫と髄膜腫、第3脳室近傍には胚細胞腫瘍が好発します。トルコ鞍周囲では下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫が多く、髄膜腫、胚細胞腫瘍などが発生します。松果体部には胚細胞腫瘍が好発します。小脳橋角部では神経鞘腫が多く、髄膜腫、類上皮腫なども発生します。小脳では、小児期には髄芽腫と星細胞腫が多く、成人では血管芽腫が多くみられます。

 これら原発性脳腫瘍にも悪性腫瘍と良性腫瘍があります。悪性腫瘍は発生母地組織および周囲組織を壊しながら発育(浸潤性発育)しますが、良性腫瘍は圧排性に発育します。脳実質内腫瘍の大部分は浸潤性発育を示し、悪性ですが、脳実質外腫瘍は良性のものが多いです。悪性腫瘍はさらに分化成熟度が病理学的に異なり、分化成熟度と予後などの臨床経過は相関します。

<診断と治療>
 診断;脳腫瘍の診断には患者の年齢、性別、病歴に加えて、神経症状・徴候と画像などの補助診断が重要です。これらの所見から発生部位、腫瘍の大きさ、伸展範囲や腫瘍組織型を類推することができます。

<脳腫瘍の症候と症状>
 脳腫瘍の症候と症状には頭蓋内圧亢進による一般症候・症状と発生部位に特徴的な局所症候・症状があります。これらの症候・症状は突然、起こることもありますが、数日から数か月単位で徐々に出現し、進行してきます。

1.   一般症候・症状
1-1    頭蓋内圧亢進症状
脳腫瘍の増大により、周囲組織が圧迫を受けると脳浮腫が起こり、頭蓋内圧が高まります。また、脳室内やその近傍に発生した腫瘍では、腫瘍により髄液流出経路が障害されると水頭症が起こり、頭蓋内圧が亢進します。これによる症状を頭蓋内圧亢進症状といい、頭痛、嘔気・嘔吐、うっ血乳頭がみられます。これら3つがそろっている場合はかなり進行した状態です。頭痛は、早朝起床時に出現することが典型的で、morningheadacheと呼ばれます。頭蓋内圧亢進症状を呈している場合は、適切な処置がなされないと脳ヘルニアを来たし、死に至る危険な状態です。
1-2    痙攣発作
腫瘍が周囲の神経細胞を刺激するために起こります。初期症状としてみられることが少なくありません。痙攣発作は、意識障害を伴う大発作から、腫瘍局在に相応した部分発作まで様々です。特に、前頭葉や側頭葉に生じた脳実質内腫瘍は痙攣発作を起こしやすいです。

2.    脳局所症候・症状(巣症状)
脳には機能局在があり、部位により、機能が異なります。脳腫瘍が発生した部位に特徴的な神経症状が起こり、以下に述べる神経学的所見から腫瘍の局在を推定することができます。

2-1 テント上腫瘍
・前頭葉腫瘍;前頭葉先端部では症状を出しにくいですが、両側性に障害されると、無関心、痴呆、記憶障害、性格変化が現れます。前頭葉には運動領野があり、この部分が障害されると、反対側の運動障害が起こります。また、言語中枢のある優位半球(右利きでは90%、左利きでは50%で左側)の腫瘍では運動性失語(思ったことを話すことができない。)をきします。
・側頭葉腫瘍;優位半球の障害では感覚性失語(他人が話していることを理解できず、会話のつじつまが合わない。)をきたすことがあります。また、病巣側と反対側の上側が見えなくなる上四分盲という視野障害が両眼に起きることがあります。
・頭頂葉腫瘍;反対側の感覚障害や非優位側では失行(服をうまく着ることができないなど)、優位側では失認などが起こります。優位側障害の失認については①手指失認(指がどれか認識できない)②左右識別障害(左・右が認識できない)③失算(計算ができない)④失書(書字ができない)を4徴候とするゲルストマン症候群が特徴的です。
・後頭葉腫瘍;後頭葉内側部分の障害で反対側同名半盲を起きます。

2-2    テント上中心部腫瘍
・第3脳室前半部腫瘍
記銘力障害の他に、第3脳室前下部 (視床下部)に発生した場合、肥満、るいそう、性早熟、尿崩症といった内分泌障害が出現します。
・松果体部腫瘍
中脳水道狭窄による水頭症、上方注視麻痺(両眼が上転できない=パリノー徴候)やアーガイル・ロバートソン瞳孔(対光反射は消失するが、近見反射は保たれている。)が特徴的です。
・トルコ鞍および傍トルコ鞍部腫瘍
トルコ鞍の中には下垂体があり、さらに、その上方に視神経および視交叉があります。視神経圧迫による視力・視野障害(両耳側半盲が特徴的)が起こり、さらに下垂体から視症下部が障害を受ければ、性機能低下、甲状腺機能低下、副腎機能不全、尿崩症、肥満、小人症の内分泌異常が起こります。

2-3    テント下腫瘍
・小脳橋角部腫瘍
聴神経の障害から同側の聴力が低下します。また、顔面神経の障害から同側の顔面神経麻痺、三叉神経の障害から同側顔面の知覚障害も起こることがあります。腫瘍が小脳・脳幹も障害すれば、小脳・脳幹症状が出現します。
・脳幹部腫瘍
脳幹から出入りする第III~XII脳神経核と運動および感覚神経線維障害が近接しているため様々な症状・徴候が出現します。眼球運動障害や複視、顔面神経麻痺、下位脳神経障害による嚥下障害や構音障害が起こります。また、片麻痺や四肢麻痺などの運動機能障害や感覚障害も起こり得ます。各種の交代性片麻痺(同側の脳神経麻痺と反対側片麻痺)が特徴的です。
・第4脳室腫瘍
第4脳室圧迫や閉塞から水頭症をきたしやすいです。
・小脳腫瘍
小脳虫部に発生した場合、平衡機能障害が出現し、体幹性失調(バランスを取ることができず、うまく歩くことができない。)が起こります。また、小脳半球障害では、障害側の運動失調(手が振るえたり、思った位置に手や足をもっていくことができない。)を呈する。

<補助診断>
主に以下の検査を組み合わせて診断します。
1)    頭蓋単純X線写真
脳腫瘍に自体による所見と腫瘍による慢性頭蓋内亢進に伴う所見がみられることがあります。
腫瘍自体による所見:良性腫瘍では長期にわたる骨の圧排による変形を認めることがある。下垂体腺腫によるトルコ鞍の風船状拡大や聴神経鞘腫の内耳道拡大などがあります。頭蓋咽頭腫、髄膜腫、乏突起膠腫などでは腫瘍内に石灰化みられることがあります。
慢性頭蓋内亢進に伴う所見:2歳ごろまでは縫合離開、頭蓋拡大がみられ、骨が軟らかい小児期には指圧痕がみられ、成人ではトルコ鞍の脱灰を認めることがあります。
2)    CT
腫瘍自体や腫瘍内の嚢胞、出血や石灰化、腫瘍周囲の脳浮腫や骨変化も描出されます。造影剤にて、腫瘍は増強されるが、腫瘍の種類により、増強効果は異なります。
3)    MRI
CTに比べてより鮮明な画像が得られ、腫瘍と頭蓋内構造物との関係が明瞭に描出される。また、複数の撮像条件から得られる所見、造影剤による増強効果は腫瘍により異なり、診断に有用です。腫瘤効果や脳浮腫も明瞭に描出されます。一方、腫瘍内の石灰化や骨変化の描出にはCTの方が優れます。また、MRIの特殊な撮像方法としてMRS (magnetic resonancespectroscopy)により腫瘍の代謝を観察することができ、良性であるか悪性であるか推測することが可能です。
4)    脳血管撮影
腫瘍栄養血管や腫瘍濃染像がみられることがあります。膠芽腫における動静脈短絡など腫瘍によって特徴的所見がみられることがあります。
5)    血清・髄液腫瘍マーカー
胚細胞腫瘍ではHCG (human chorionic gonadotropin)やAFP (alphafetoprotein)が血中、髄液中で上昇することがあります。
治療
手術による摘出が原則です。脳腫瘍の各組織型の診断は、摘出した腫瘍の病理組織検査の結果を基に確定されます。この結果により術後の治療方法が異なります。悪性神経膠腫、悪性リンパ腫や胚細胞腫瘍などの悪性腫瘍は正常組織に浸潤しているため手術だけでは根治不可能であり、放射線療法と化学療法などの補助療法が必要です。さらに、腫瘍ごとに感受性のある化学療法剤が異なるため、治療方針が異なります。また、髄膜腫や神経鞘腫などの良性腫瘍は全摘出できれば治癒を期待できます。これらの良性腫瘍において、その局在により全摘出できない場合には、残存腫瘍に対して、ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位放射線照射が行われることがあります。